クラシカロイド 3期2話「さすらい人、目醒める」あらすじ
クラシカロイド 3期2話「さすらい人、目醒める」あらすじ
レゲエマン「ザ・グレート」の活動が終了してだいぶ経った今も、「Life is Beautiful」は世界中で広く愛されている。どこから聞きつけたのか、月に1通ほど、紅白ムジーク合戦が開かれたハママツドームを経由して、音羽館にファンレターが贈られてくる。
「ザ・グレートの復活を期待しています!」
その言葉をかけられるたびに、再びレゲエマンに変身しようとするシューベルト。しかしその度に、ワーグナーとベトの言葉が胸に刺さる。
「はっきり言って主体性がないっていうか」
「叫びたいならお前の旋律で語れ」
折しも今日は、ベトが「もう一つの究極のギョーザー」を求めるために、書き置きをのこして栃木県へと旅立った日。いつもの頼れる「先輩」もないままに、後輩の心は、悲しみに曇る。
「違う……。私はジャマイカにいた時、心の底から、レゲエが素晴らしいと思った。ヒップホップだってそう。どちらを取り入れるときも、自分の古い音楽に新しい旋律を導入しようと、必死に研究した。この熱意は本物だ。
しかし、出会った音楽にいちいち感動して、これしかないという気持ちで、吸収していったのも事実……。やはり私の旋律は「借り物」なのか。今の私には、決意をする自信がない……」
涙を流し、「Life is Beautiful」のムジークを漏れ立たせかけるシューさん。その肩を叩き、諌めてくれたのは、リストだった。気がつけば、周りには音羽館のみんながいる。
「じゃあ、もっとたくさんの音楽に触れればいいのよ。あんた、なんだかんだ言ってまだ、レゲエとヒップホップしかやったことないじゃない。両方とも、私たちの時代のものとは全く違う、目新しい音楽。目移りするのも当然よ。
だからいっそのこと、もっと目移ししちゃいましょう。色々やって見て、その中から、あなたの好きな音楽を選べばいいのよ。私たちも協力するから」
「リスト殿……、みんな……!」
「そのかわり……、終わったら、「なんでも」してくれるよね?」
シューさんはこわごわ頷くしかなかった。
最初にシューの手を引いたのはリスト。いきなり彼をピアノの前に座らせる。
「失敬な、私だってピアノぐらい……」
「あら、あなたに私のような超絶技巧ができるの?」
「それは……」
「わかったらさっさとやる! まず手始めに、ショパンのエチュード、opus10-2よ!」
「あ、指が、もげる……」
数日後、クタクタになったシューを部屋に招き入れたショパン。
「これから毎日、僕の部屋に食事を持ってきてよ。今日からとても忙しくなるからさ。
そのかわり、君にDTMを教えてあげる」
「でぃーてぃー……? あの、私、パソコンはさっぱり……」
「操作から教えてあげるから。ほら、まずこれをドラッグ&ドロップして? え、ドラドロもわからないの……」
目が疲れてしょぼしょぼになったシューさんを、モツが街に連れ出す。
「なぜお前になど……!」
「いいじゃん、楽しもうよ!」
ローラースケートをシューに履かせ、ふらつく彼を支えながら、街へ駆け出すモツ。
「ほら、スーパーのBGM、ラーメン屋さんのチャルメラ、子供達の笑い声……! 外は音楽でいっぱいだよ。聞いていると、僕の頭の中に、音符が溢れ出てくるんだ。シューくんも感じない? おたまじゃくしたちのざわめき!」
「とりあえず、頭がクラクラする……」
「あ、頭の上で星が舞ってる!」
ふらふらになったシューさんを出迎えたのは、ワーグナーとクラクラの二人だった。
「ワーグナーくん、君は私のこと、嫌いじゃなかったのか?」
「あの時は、自分に自信がなかっただけさ。本当にごめん。あれは言い過ぎだった。せめて、「歌詞がノーテンキすぎてダサい」ぐらいにしときゃよかったね」
「おのれ言わせておけば……!」
「ごちゃごちゃ言ってないで、始めるべ」
「アイドル修行をね」
そのままアルケー社に連れていかれるシューさん。歌苗も受けた厳しいレッスンをこなし、精一杯の声で「やってらんない気分」を歌う。
「アイドルってこんなに大変なのか……、はあ、はあ、疲れた……」
そんな彼の前に止まったカバ列車。
「ただいま参りました電車は、悠久の彼方経由、進むべき道行きでございます。間も無く発車しますので、急いでお乗りください」
カバ列車に乗って、中国、ロシア、トルコ、アンデス高地、そしてアフリカの奥地など、世界中の民族音楽を見て回るシューベルト。
「知らなかった、世界には、まだまだたくさんの音楽がある……」
旅の最後の目的地は、オーストリアのシュヴァルツェンベルク。そこでシューベルトが見たものは、シューベルティアーデの演奏。前世に自分が生み出した楽曲が、称賛を持って奏でられる様に、シューベルトは感動を禁じ得なかった。
「そうだ、ヒップホップに目覚める前の自分がダダ漏れにしていた、「子守唄」と「ます」のムジーク……、あれだって、私の大切な音楽だ。それを忘れていたなんて……」
カバ列車は音羽館へと到着する。シューさんはベートーヴェンの部屋に行き、フライパンの横に立てかけられたギターを手にとる。
「今なら、飲み込まれずに受け入れられる」
そして静かに、ギターをかき鳴らした。
数週間ののち、ベートーヴェンが音羽館に帰ってくる。宇都宮の冷凍餃子を大量に抱えて。
「皆、喜べ! ギョーザーの真髄にまた一歩近づいたぞ!」
そんな先輩に、シューさんは近づいていく。そして微笑んだ。
「先輩。私も近づきましたよ。ありのままの自分に!」
タクトを取り出し、奏でるは、新しいムジーク。「さすらい人幻想曲」。
ギターとピアノの音色、ポップだが激しい旋律、所々入るボカロの掛け声と環境音、民族音楽的なフレーズに合わせ、音羽館はコンサートホールの幻覚に包まれる。
パッド君の解説が入る。「シューベルトはこの曲を作曲したが自分では弾けず、「こんなものは悪魔にでも弾かせておけと言ったのだとか」」
奏助はシューさんを見上げる。「でもシューさん、めちゃくちゃ使いこなしてるじゃん! 自分のムジークを!」
音羽館のみんなに感動が沸き起こる。
全てが終わり、気を失いかけたシューの前に、差し出された、堅く大きな、「Good job!」の形をした手。
見つめる先には、ベトのかすかな笑みがあった。
「よくやったな、後輩」