音楽家系マンガ・アニメ「クラシカロイド」「フロイデ」「ジャジャジャジャーン!」比較
音楽家系マンガ・アニメ「クラシカロイド」「フロイデ」「ジャジャジャジャーン!」比較
ナジェ「今回は、音楽家が多数登場してワイワイやる系の作品を3つ取り上げて、ストーリー、キャラクター、音楽の3つの面で、3者を比較したいと思います。これからクラシックを聴き始めてみようと思う方、テイストの合う作品を選んで触れて見ては?」
ミーチャ「俺とナジェの座談会形式で紹介しますので、どうかご了承ください。それではどうぞ!」
あらすじ
・アニメ「クラシカロイド」
HP:http://www.classicaloid.net
天才音楽家の記憶と人格を持つ人造人間、「クラシカロイド」が、一人暮らしの高校生、音羽歌苗の家に押しかけて勝手気ままに大騒ぎ! 一見ただの自由人に見える彼らには、前世に作曲した音楽を現代風にアレンジした楽曲であり、鳴らすと様々な超常現象を起こせる不思議な力「ムジーク」があった。「ムジーク」の暴走で、歌苗とクラシカロイドたちは、魚になったりみかんゾンビになったりと、カオスな日常を送ることに……。
・漫画「フロイデ」(作:車戸亮太)
Amazon: https://www.amazon.co.jp/フロイデ-モーニング-KC-車戸-亮太/dp/4063885933
ネット公開の番外編:http://morning.moae.jp/lineup/502
偉大な音楽家たちが死後に集結する場所、「音楽の都(ウィーン)」。この天国に来てこのかた、一曲も新作を生み出せていないことに悩んでいるベートーヴェンは、モーツアルトやショパン、リスト、サリエリ、バッハなど、様々な音楽家たちと交流していく……。
・漫画「ジャジャジャジャーン!」(全2巻)(作:田中マコト)
音楽室にある肖像画を媒介に、日本中の学校を自由に行き来できるようになった作曲家の霊たち。ベートーヴェンは、交響曲10番を完成させるために、夜な夜な音楽室でピアノに向き合う。そこに、モーツアルトや滝廉太郎など、様々な音楽家がちょっかいを出してきて……。
比較1:ストーリー
ナジェ「さて、あらすじ紹介が終わったところで、比較に移りたいと思います。
まず、ストーリーについて。クラシカロイドは、端的に言うとカオスなギャグアニメ。クラシックの名曲の紹介や、音楽家たちの面白エピソードもちょこっとずつは紹介しているのですが、クラシック要素が1ミリもないギャグ回もあります。作曲家たちが家事したり、バイトしたり、お相撲したり。そんな回でも、間の取り方やテンポが良く、ギャグ自体はハイセンスなので、見る価値はあります。ただ、真面目なアニメを期待して見るとがっかりするでしょう。現に私も、初めて見た回がたまたま史実ネタ満載のまともな回だったので、それを全体の雰囲気と勘違いし、続きを見て唖然としたのですが」
ミーチャ「実は隠れハママツ名産布教アニメだということにも言及しておく必要があるでしょう。ベートーヴェンが餃子焼いたり、みかんを食べてゾンビになったり、茶摘みのアルバイトをしたりします。見ているうちに「あれ、これってなんのアニメだっけ?」となると思います。これを許容できるかどうかが分かれ道かも」
ナジェ「次に、フロイデについて。音楽家同士がそれぞれの個性を発揮しながらわちゃわちゃする、ほのぼのとした日常系漫画と言えるでしょう。こちらもギャグはありますが、前述のクラシカロイドと違って、シュールさや現代っぽさ(ネットネタなど)はかなり少なめ。子供にオススメしやすいのはこれかな」
ミーチャ「物語としては、最初は音楽家の逸話満載のギャグシーンが多く、後半に行くにつれて音楽に関する名言を誰かが吐いていい感じに話が締めくくられます。ほとんどの登場人物に、作曲シーンや史実での名言の紹介など、音楽家としてのかっこいい姿を見せつけるシーンが用意されているのもいい。ボウリング中にメロディを思いついて、その場にあったチェンバロ(!)で作曲しだすモーツアルトとか、ショパンやリストの名言とか、ワーグナーの孤独とか、読んだだけであかん、惚れてまうやろ! ってなるよ。ピアノやバイオリンを弾く描写もめっちゃ美しいしね。ストーリー的にはテンプレ的で薄味なのに、こういうかっこいいシーンの描き方がいいから全く陳腐さを感じない。ぜひ読んでみるべき」
ナジェ「最後に、ジャジャジャジャーン! について。日常アニメ風の前述の二作品とは違い、この話は「ベートーヴェンが交響曲第10番を作曲する」と言う明確なゴールがあります。まあ、DJしたり校歌作ったりと、脱線的なことも色々やるんだけどねw ベートーヴェンから始まった「第9の呪い」はあまりに有名なので、既に死んでしまい、この呪いから解き放たれたベートーヴェンがどんな行動を取るのか、とてもワクワクさせられたよ」
ミーチャ「この話、下ネタや現代社会の風刺も含め、ギャグがかなりゲスいから注意。見ようによっちゃセックスに見えるショパンとジョルジュサンドの登場シーンとか、卒業式や音楽学校って実は形骸的なもんじゃね? という痛烈な批判とか、音楽家たちが著作権を毟り取ろうとする話とか。これを許容できるかどうかが鍵かな。フロイデのように、音楽家のかっこいい姿を映し出すシーンは少なめ。ただ、ある学校のダサい校歌を憂えて、新しい校歌を作ったり、「第九」でDJをしたりするなど、現代の文脈に即した別の意味でのかっこよさは大いに強調されている。クラシカロイドもそうだけど、この作品は現代常識を受け入れた作曲家たちの活躍が見られるから、そうしたif世界を体験できる楽しい漫画ではあるよ」
ナジェ「それでは、短くまとめます。
クラシカロイド:シュールギャグを通して音楽をゆるく勉強するアニメ
フロイデ:音楽家たちのほのぼの日常と時折かっこいい彼らを楽しむ漫画
ジャジャジャジャーン!:音楽家たちの現代での活躍を楽しむカリカチュア
比較2:キャラクター
ナジェ「まず全体的な印象を述べてから、個々の作曲家がどう描かれているかを簡単に比較します。まずクラシカロイド。登場する音楽家はバッハ、ベートーヴェン、モーツアルト、シューベルト、ショパン、リスト、チャイコフスキー、バダジェフスカ(乙女の祈りの人)、ワーグナー、ドヴォルザーク。要するに、古典派、バロック、ロマン派までの主要音楽家ですね。彼らの「変人」としての一面を盛大にデフォルメして、ベクトルを音楽以外の方向に向けたのが、クラシカロイドのキャラクターたちです。ですから、ベートーヴェンが究極の餃子にこだわったり、モーツアルトがおっぱい型ケーキを作ったり、ショパンが引きこもりの2ちゃんねらーだったりします。これ、相当大胆な改変ですよね。その改変は見た目にも及んでいて、史実の姿の面影があるのはベートーヴェンだけで、モーツアルトはピンク髪、ワーグナーはショタ、リストとチャイコフスキーに至っては女体化しています。これを受け入れないと始まらない。なかなか実験的なキャラ造形ですよね」
ミーチャ「それに対して、フロイデの音楽家たちは、見た目可愛く、性格は日常系にそぐうようにゆるく改変されている。精神を病んでいたシューマンは、気に入らないことがあると入水を図る人に、私生活がクズ人間そのもののドビュッシーは、キャバクラに通い、ラヴェルにエロ本を薦める変態に、という風に、きつい逸話も深く考えず笑えるようにアレンジされている。この辺が、風刺やシュールギャグが好きな人には物足りないかも。
もう一つの特徴は、出てくる音楽家の豊富さ。この3作品の中でもトップ。クラシカロイドで出た10人のうち、チャイコフスキーとバダジェフスカは出ていませんが、あとは全員どれかのエピソードの主役にて出場(ドヴォルザークは番外編のみ)。その他にも、バッハの同時代人のイタリアン、ヴィヴァルディ(きつい関西弁のショタ)や、バッハベートーヴェンと並ぶ3Bの一人、ブラームス(ベートーヴェンのストーカーであるヒゲモジャ)、二人の印象派、ドビュッシーとラヴェルなど、時代も曲調も様々な音楽家が勢ぞろいしている。この意味で、クラシック史の勉強に一番なるのはこの漫画かも。カバー裏には時代別音楽家リストがついているという親切設計」
ナジェ「最後に、ジャジャジャジャーンについて。まず、一つの大きな特徴として、キャラの見た目は肖像画そのままであり、表情が肖像画の真顔のまま動かないこと。真顔のまま涙流したり切れたりしている姿はなかなかシュール。この辺がちょっと人を選んでしまうかも。
性格は、大きな改変はないものの、全員の関心がギャグむきに振り切れている。教会のパシリだったバッハが完全な守銭奴になっていたり、プレイボーイのリストがど変態になっていたり。そんな彼らの織りなすギャグは最高に面白い。
登場する音楽家は、ローマ帝国の教会音楽家グレゴリウス1世からショパン、リストまで、古い方向に振り切れている。変わり種としては、滝廉太郎が「ガイアが俺に囁いている」系の自信過剰男として登場。お前絶対そんなキャラじゃなかっただろw でもそれがいい」
ミーチャ「以上、全体の傾向を短くまとめると、
フロイデ:日常系のゆるい改変、古典ー印象派の豊富なラインナップ
ジャジャジャジャーン:いやに現代的な音楽家の皆さん、変わり種もあるよ」
ナジェ「では以下、主要音楽家が各作品でどう描かれているかを簡単に説明します。以下、クラシカロイド→クラ、フロイデ→フロ、ジャジャジャジャーン→ジャで」
クラ:頑固でこだわりが強い、ただしその対象は餃子。
フロ:気さくな好青年、新曲が書けず落ち込みがち。ただこだわりや酒癖の悪さを変なところで発揮。
ジャ:真面目で頑固。ツッコミ役。交響曲10番の完成を目指す。
総評:こだわりのベクトルをどこに振るか。
クラ:精神年齢8歳のイケメン。下ネタ、いたずら、女の子大好き。
フロ:遊びながら脳内で音楽作る天才。着想わくと後光がさす。
ジャ:ベートーヴェンにちょっかい出す役。生前の悪妻を恨んでいる。
総評:天才かつ変態という特性の解釈の違い。
クラ:真面目な不憫キャラ。ベートーヴェン先輩命。モーツアルトを嫌悪。
フロ:寡黙な変人。自分のファン達やサリエリ、ベートーヴェンをパシる。
ジャ:ベートーヴェンを前に股間を押さえる。常に汗をかいている口下手な変態。
総評:どうしてこんなにキャラ造形がバラバラなの!?
・バッハ
クラ:イケオジのアイドルプロデューサー。音楽用語での会話とカツラと変なポーズで笑いを取る。
フロ:多忙なアイドルプロデューサー。結構太ってる。ヴィヴァルディと対決。
ジャ:守銭奴。亡霊音楽家の演奏のネット配信や著作権料徴収などで儲けようとしている。
総評:宮廷音楽家はプロデューサーになる運命。
・ショパン
クラ:引きこもり、ゲーム廃人、コミュ障、人見知り、ネット弁慶。ボカロPやyoutuberになる。
フロ:花を愛でながら吐血。引っ込み思案でコンサート苦手。ベートーヴェンを代理に立てる。
ジャ:ジョルジュサンドと登場。ジェスチャーで会話するドM。登場シーンが際どい。
総評:クラシカロイドが一番史実にかなっている(史実ショパンは皮肉とユーモアが得意な内弁慶だった)
・リスト
クラ:巨乳の金髪美女。愛の伝道師。バーでピアノを弾いてショパンを養う。
フロ:イケメンナルシスト。超絶技巧を見せつけモテモテ。SNSを駆使。義理の息子ワーグナーと対立。
ジャ:普段は皺くちゃ爺さん、ピアノに触れるとイケメンに。女子校の守になった変態。
総評:イケメンリストにデフォルメはいらないのだが、どうした、クラシカロイド!?
ナジェ「みなさんの知っている音楽家はどうデフォルメされていたでしょうか? 気に入った設定の作品を楽しんで見てもいいかもしれません」
比較3:音楽
ナジェ「クラシック音楽の普及要素がどれだけあるかについて。これに関してはね、クラシカロイドの一人勝ち。映像作品という強みを生かして、クラシックの名曲を現代のアニソン風に大胆にアレンジしたムジークというのが出てくるから。これで、耳慣れたギターやシンセサイザーの音色を通してクラシックの有名な旋律を覚えられる。さらに、アレンジの種類も、ロック、ポップス、演歌、ボカロ、ヒップホップ、レゲエと豊富だから、他の音楽ジャンルへの橋渡しにもなっている。クラシックに限らず音楽そのものの普及アニメとして、この作品は成功を収めている。ソースは私」
ミーチャ「一応フロイデも、ショパンやリストのピアノ曲の演奏法が細かく描写されていたり、各キャラの楽器演奏シーンが超絶かっこよかったりと、「クラシック聴きたい!」と思わせる要素はたくさんあるんだけど、クラシカロイドのムジークほど直接的に訴えるものではないね」
ナジェ「ジャジャジャジャーンは、著作権の話や、音大生の末路の話など、現代の音楽業界の闇を描写するという意味で音楽漫画しているのが面白い。これはこれで唯一無二だね」
結論
ナジェ「私が考えるベストなクラシックの門への入り方としては、
1.まずクラシカロイドのムジークだけ聴く。(itunesやyoutubeでも多数配信されています)
2.気に入った曲の原曲を聴く。(こちらも大概youtubeで見つかります)
3.クラシカロイドのアニメや、フロイデ、ジャジャジャジャーンで、史実ネタを知って理解を深める。
でしょうか。要するにまずはクラシカロイドだ!」
ミーチャ「そこでクラシカ愛を発揮されてもw
上述のはあくまで提案です。好きな手順、好きなやり方でクラシックを一度楽しんで見てください。前述の漫画やアニメではないですが、音楽にも偉人達の逸話にも意外と現代に通じる部分があって、面白いですよ!」